皇無氏作:「住人マンション」



−Prologue−



 目の前には木造のアパートが建っている。私の右手にある手紙が示す場所は、此処だ。

 いつもお世話になっている海老天氏から先程手紙が来た。どうやら、オフ会をするとのことで、アパートを一つ買ったらしい。アパート一つ買う事が出来る程、氏は金持なのだろうか。しかも、唯オフ会をするためだけに、だ。

 いきなり手紙が来て最初勿論戸惑ったが、開催場所は其処まで遠くないし、色々な作家たちと出会えるこれまでにないチャンスだと思い、私は家を出た。

 手紙が示す住所を頼りに、歩いてきたが、先ほどから心臓が破裂しそうなくらいに激しく脈打っている。緊張しない方がおかしいか。小説板でいつもお世話になっている方々とリアルでお会いできるのだから。

 アパートは其処まで古いというわけでもなく、かなりモダンな造りで、二階建てなのに比較的大きい。落ち着いた茶色で塗装された外観は、いかにも高級なアパートという事を物語っている。

 だが、疑問に思う事がある。何故、アパートなのだろうか。宴会場でも貸し切りにすればいいものを。いくら高級なアパートだったとしても、一部屋に何十人も押しこむ訳には行くまい。

 手紙を改めて見る。其処に答えがあるはずだ。無難な招待の言葉が連なられている。そして、下の方に書かれた、このオフ会の題名。


――住人マンション。


 OK。とりあえず、突っ込むところがあるぞ、海老天氏。

 どう見ても、アパートです。本当にありがとうございました。


 とりあえず、アパートに入ってみればいいだろう。マンションの筈がアパートになっているのは氏のユーモア故ということでスルーしておこう。

 先ずは一階から、行ってみよう。ドアは漆黒で、高級感が漂っている。そして、壁には食べ物、と書いてあった。少し意味がわからなかったが、暫く考えているうちに謎も解けてきた。成程、此処は立食会場か。

 いきなり立食会場から入るのはいくらなんでも図々しいだろう。まだ昼にもなってないのだから、此処は後でいい。食べ物と書かれた漆黒のドアの左に目をつける。そのドアは立食会場のドアとは違い、漆紅で染まっていた。

 アパートなのだから、ドアの色は統一されているのかと思っていたのだが、どうやらそうでは無いらしい。漆紅で染められたドアの左横には蒼くドアが染められている。しかも、それらはとても年季が入っているとは思えず、塗られて間もないように見える。

――買ったアパートのドアを全て塗りつくすとは流石だな。氏。

 もう夏だからか、照りつける日差しが痛い。しかも、全身真っ黒というカラス服装なため、日差しを無駄に吸収してしまい、体中が燃えるように熱くなっていく。黒が好きというのも困りものだなと改めて思わされる。

 私は上に羽織っているシャツを脱ぎ、肩にかける。そして、改めて漆紅で染められたドアを見る。だが、其処には何も書かれていない。左横に有った蒼く塗られたドアを見てみるが、それも同じだ。

 また、手紙を読む。だが、其処には何も書かれていない。これは一体どういうことなのだろうか。部屋に適当に入れという事だろうか。考えれば考えるほど、体中から汗が噴き出してくる。暑い。暑過ぎる。

 しょうがない、私の好きな紅に染まったドアを開けてみよう。間違えたとしても、謝れば済むことだ。私はゆっくりとドアノブに手を掛け、ドアを引く。ドアを開けた途端流れ込んできた冷気に多少体を震わせ、中にはいる。

 だが、其処には誰も居ない。廊下は短く、目測で二メートル程度で終わっている。私から見て、廊下の左側にドアが付いており、トイレかと推測する。右側にもドアが付いており、此方は風呂かなと推測する。

 廊下がリビングの端にでもついているのか、玄関からでは、リビングの様子は分らないし、どれ程の大きさなのかもわからない。右手に握ったままのドアノブをゆっくりと引いて、ドアを閉める。

 私は靴を脱ぎ、廊下に足を踏み出す。今のところ、全く何も聞こえない。だが、少しいい匂いがする。食べ物屋そういう類の匂いでは無い、これは花、だろうか。

 リビングを恐る恐る覗いてみる。其処には、真紅の体色を持った――AAが居た。私はその姿を知っている。否、知らないはずがない。私が一番好きなAAキャラの一人でもあるのだから。

「オ、客ガ来タミテェダナ」

 真紅のAA――つーは私に顔を向け、笑顔を作る。黄金色の瞳はいつ見ても美しく、意識が飛びそうになる。つーはリビング一杯に敷き詰められた絨毯の上で座り、私に背を向けている。そして、つーの目の前に居るのは私が知らない人物だった。

 

「はじめまして。私が分りますか?」

 笑顔で手を出してきた人物は自分が分るかと言ってきたが、分るはずもなく、私は情けなく首を横に振った。私と同じ黒髪を持っており、目は大きく黒い瞳が水分によってキラキラと光っている。

 私とは対照的な白いシャツを着ており、下は青いジーンズというラフな服装をしていた。肌は、白い。見た目からして男だが、その肌の白さ、そして、比較的好青年と思われる顔立ちで、中性的な雰囲気が漂う。

「残念ながら、分りかねます」

 つーがアヒャヒャヒャと笑い、男も、ほほ笑む。リアルでは初対面なのだから、分るはずもない。誰だろうと頭をひねっていると、彼はあっさりとネタばらしをしてくれた。

「私は楽です」

「ああ、楽氏でしたか。イメージ通りというか、なんというか」

 内心驚いた。此処まで爽やかな人だとは思ってもいなかった。しかし、何故つーが居るんだ? 楽氏の前に其処を突っ込みたい。

「ええと、つーは一体此処で何をしているんですか?」

「ナンダヨ。俺ガイチャ悪イッテカ?」
 
 つーは目を細めて私の事を睨む。私はその目線を華麗にスルーし、楽氏の眼を見る。

「いやぁ、私が最初この部屋に来た時から居たんですよね。多分、このオフ会の仕様の一種なんじゃないのかなぁと」

「そうですかぁ」

「貴方は皇無氏ですよね?」

 ……すごいなこの人は。楽氏が誰だか私は分らなかったのに、この人はズバリ的中させちゃったよ。

「はい。そうです」

「いやぁ、全身真っ黒ですから、もしやとは思ってたんですがね」

 しかし、爽やかな人だなぁとつくづく思う。この人、たぶんリアルでモテルだろうな。其れに比べて自分はどうだ。カラス顔負けのこの全身真っ黒さ。楽氏にまで指摘されてしまった。
 
 黒が好きだから故というのもあるが、やはり、黒一色はまずかったか。だが、今更後悔しても後の祭り。自分のセンスの無さを呪うしかないだろう。

 私の心の中を読み取ったのか、つーはにやにやしながら私に向かって無情な言葉を吐きつける。

「シカシ、ソノ服装ハナンダヨ。黒過ギダロ」

 楽氏はその言葉に苦笑し、後頭部を掻く。私は微笑を保っていたが、内心ムカついていた。

「まぁ、服装はどうでもいいとして、まだ人は集まってないみたいですね」

 つーはまだニヤニヤしている。

「他の部屋も先ほど覗いてみたんですが、海老天氏すら来てないようで」

 主催者が遅刻か。それもまた、どうなのだろう。

「どうやら、ドアの色に有ったAAキャラが部屋で待機しているようです。この部屋の他にも、蒼、白、黄、桃、茶と有りました」

「成程、AAキャラの体色に合わせてあるということですね」

 だから、海老天氏はドアを塗りたくったのか。これで納得できる。

「みたいですね」

 それから、私達は様々なことについて語り始めた。小説や、趣味など、彼とは話題が尽きることなく話し続けた。つーが途中で横槍を入れながらも、あっと言う間の一時間を過ごした。十二時を告げる時報が時計からなった後、つーが腹減ったとわめき始めたので、私達は食べ物と書かれた部屋へと移動した。

 其処に集まっていたのは、様々な人物たちだった。海老天氏が集めた作家たちだろう。私はその光景を見、今日は最高の一時を過ごせそうだと半ば確信しながら、部屋へと入っていった。


 宴はまだ、はじまったばかり。



*入場したい部屋のドアをノックして下さい*


食べ物 紅 蒼 白 黄 桃 茶

アパート:prawn建設



−Epilogue−


 どんなに楽しい時間でも、どんなに苦しい時間でも、時間というものは確実に過ぎ去っていく。そんな至極当たり前のことを私は嫌でも目の前に突きつけられる。

 祭りはいずれ終わるもの。それはどんな素晴らしい祭りでも、くだらない祭りであったとしても同様のことである。立食会場に設置されたごく普通の円の形をした時計が一分、一秒を刻むたびに私は感傷的になる。
 
 右手の葡萄ジュースが突如鉛へと質量を変える。笑みを絶やさなかった私でも、その重さに驚き、表情を崩す。無論、表情を崩したのは葡萄ジュースだけのせいではない。着々と迫ってくる時間の所為だ。

「皇無氏、どうかしたか? さっきから一言も話していないじゃないか」

 兎さん――あえてこう呼ばせてもらう――は私の表情を覗き込みながら、右手に持った皿から様々な種類のスナック菓子を食べ漁っている。見た目は極普通の学生といったところだろうか。特徴があまり見受けられないが、だからと言って地味というわけではない。

 ポップ調で書かれた英字がプリントされてあるTシャツの上に涼しげな水色のシャツをはおっているその服装は、今時の青年といったほうがいいのだろうか。ファッションというものが全く分からない自分にとっては、彼の服装が現代風なのか、少し遅れているのかはわからない。

 私のように鬱陶しいほど髪を伸ばしているわけではなく、丁度良い長さで切りそろえてあり、所々立たせてあるその髪型は今風といってもいいだろう。活発なスポーツ青年という印象を受けるかもしれない。

 微笑みを絶やさないが、目が真剣に私を貫いている。何か問題でもあるのかという探りが目から発せられ、私の体をなめ回す。

「いえ、解散の時間があと少しで来るのだろうなと思うと、感傷的になってしまって」

 彼らと別れるのが怖いというのも本音である。一度彼らの優しさに触れてしまった私は、多分、またその優しさがほしくなってしまうだろう。それが怖いのだ。

「わかるな、その気持ち。オフ会ってこんなに楽しいものだったんだって思うとさ、別れるのがつらくなるよなー」

 スナック菓子を食べながら逆の手に持ったオレンジジュースを彼は口に含む。何とも豪快な食べ方をする人だな。と彼を見ながら思う。私はあのような食べ方は絶対にできないだろう。他人の視線を必要以上に気にする私は、自意識過剰に嫌でもなってしまうからだ。

 隣では楽氏が気持ちよさそうに眠っている。つーは彼の肩に頭を乗せ、楽氏と同じような体勢で気持ちよさそうに眠っていた。耳を近づければスースーという寝息が聞こえてきそうなほどぐっすりと眠っている。

 つーは先ほど海老天氏とばか騒ぎをしたせいで疲れたのだろう。楽氏もつーの暴走を止めるのに必死だったし。包丁を振り回し、海老天氏と天麩羅について大激論をしていた時は呆れざる負えなかった。

 私はこの立食会場へはいってきた時を思い出す気持で、リビングを眺める。


 壽氏、無名 鏡氏、メロウ氏、高瀬氏、餅氏、兎氏、海老天氏、楽氏、高遠 ロキ氏、美玲氏、ヴァル氏、ユー氏、愚者氏。様々な作家の方々と出会った。

 そして、エキストラという不運な役柄を手に入れた六色のAA達。彼らはそれぞれ、作家たちに弄られたり、可愛がられたり、戯れたりしている。例外として、寝ているものが私の隣にいるが。

 終わるなら、終わるまで楽しもうじゃないか。私はそう思い、席から立ち上がる。私の肩にもたれかかる様に寝ていた楽氏は、支えられていたものがなくなったので、椅子の角に頭をぶつけ、痛みによって目を覚ました。心の中で彼に謝り、私は作家たちの輪の中へとはいっていく。

 私が輪の中へと入り込もうとした時、無名氏がこちらを向き、ニヤニヤとした表情で私を見る。

「やぁ、変態。椅子で楽氏といちゃいちゃしていたんじゃなかったのか?」

「うるさいですね。いちゃいちゃなんかしていませんよ。その前に私はホモではありません」

「どうだか。さっき海老天氏が、これから皇無氏と楽氏の結婚式を始めますとか言ってたぞ。なぁ、壽氏」

「ですね。わざわざ拡声器まで使って皆に報告してましたよ」

 無名氏は正に現代風の青年という顔だちをしており、意地の悪さと優しさが一緒に言葉の中に含まれるため、私はどう解釈していいのか分からない時が多々ある。今の言動だって、楽氏と仲がいいねと言われたのか、ホモ乙という意味で言われたのかわからない。

 真黒いTシャツに意味不明な英字が書かれた服を着、青いジーンズというラフな服装をしている無名氏は、何となくロックバンドを思い浮かべる。

 壽氏は淡々と話し、あまり感情を表に出さない雰囲気がある。冷静、というよりかは感情を表に出すのが苦手なのかもしれない。比較的大きな目を持つ彼は可憐な印象があり、それとは対照的な体つきが何ともちぐはぐな彼を作り出している。

 無地のシャツを着ている彼は、少し大人びて見える。はち切れんばかりに盛りあがった体には少々不釣り合い感があるのは否定できないが。

 海老天氏め、全く。酔っているからと言って、拡声器まで使って私はホモだと宣言するとは。問い詰めよう。私を全作家方のさらしものにしたことを後悔するまで問い詰めてやろう。

 海老天氏はリビングの真ん中で高瀬氏や餅氏と仲良く話していた。つーとの大激論の所為で顔に少々赤みが見られるが、それは多分左手に持った度数の高いウィスキーのせいだろう。彼は成年だろうと思うから誰もとがめないが、それでもあそこまで飲んだら少少危険だとおもう。
 
 ニットのTシャツに大人びたダークグレーのズボンを着用しているその姿は、私の中のイメージである課長を思い浮かべる。休日にゴルフでもやっていそうな、そんな雰囲気があった。

 対する高瀬氏は白いYシャツに黒いジーンズという私と似たような格好をしていた。シンプルで華やかさが全く見当たらないにもかかわらず、上手く着こなしている高瀬氏は楽氏並みに爽やかで、好青年の印象を持つ。

 艶やかで、部屋の光を存分に反射している高瀬氏の髪は、櫛を滑らせてもきっと、引っかかることはないだろう。優しそうな雰囲気を持つ彼は、彼に絡んでくる人を拒むことは絶対にないだろうなと勝手な推測を頭で考える。

 私はゆっくりと彼らに近づき、一番初めに目があった高瀬氏に向かって軽く会釈をする。彼は微笑みながら私に右手をあげ、歓迎してくれた。やはり、私の憶測は間違っていなかったんだろう。

「皇無氏、ですよね。先ほどから椅子に座って何やら放心状態でしたが、調子でも悪いのですか?」

 私を心配してくれている人は比較的多かったんだなと心の中で気づく。お酒の匂いがツンと鼻をついたが、そこまできついものではなく、私にとっては心地よいにおいにも思えた。

「いえ、解散の時間があと少しで来るのだろうなと思うと、感傷的になってしまって」

 兎さんのときとまったく同じ言葉を言うはめになるとは。

「そういえば、もうそろそろそんな時間ですね」

 餅氏が私の言葉に反応する。地味でも派手でもない彼女は、大人の女性であろう。様々な不運に見舞われ、数々の助けを作家方から得た彼女は幸せなのだろうか、それとも。

 青いラッパ型のジーンズを穿き、黒いシャツに身を包んだその姿からは、ボーイッシュな雰囲気がとれる。ショートカットで整えられた髪型からさらに活発な雰囲気も見て取れる。

「他の方々はどこに?」

 右手に持った葡萄ジュースを口に含み、私は海老天氏に問う。

「多分、テラスか二階でしょう」

 そういえば、テラスにも何人かいたような気もする。二階はまだ行っていないが、残りはたぶんそこにいるのだろう。

「そうですか。ありがとうございます。では」

 三人、私に手を振りながらまた、先ほどまで続けていただろう話題を話し始めた。私は、最後にここに来た人たち全員を目に焼き付けておかねばならない。あと数十分で閉会式も始まってしまうのだから、急がなければ。

 あ、海老天氏を問い詰めるのを忘れてしまった。高瀬氏と餅氏の穏やかさで私の中にあった闘争心が綺麗になくなってしまったのだろうか。幸運な事なのだろうか。不思議な方々だなと思いながら、私はテラスに向かう。
 
 
 テラスには二人のAAと、ヴァル氏、メロウ氏、高遠 ロキ氏が居た。

 AAはちらりと見えた体色から察するに、しぃとギコだろう。私はテラスへと足を運ぶ。初めに私に挨拶をくれたのは、ヴァル氏だった。お菓子で家族を丸めこむ何とも不思議な力を持つ彼は、とても面白い。

「あ、皇無。ヴァルがおかしくなったんだが、何故か知らないか?」

 ギコは私を見るなり、質問を問う。ヴァル氏が壊れている? いったいどういうことだろうか。

「ああ、こうむし。ぎこはうそをいっています。わたしはおかしくありません」

 うん。おかしいね。どうしたんだろう。

「さっきからこの調子なんだぜ。いい加減うんざりするぜ」

 ギコはため息をつきながら、しぃに同意を求めてるのか、彼女に目を向け肩をすくめる。

 ヴァル氏は手に持ったお茶を啜りながら、たどたどしい日本語で話す。一体何を表現しようとしているのか私にはまったくわからない。

 私は、ギコが何やらヴァル氏に言っているのを見、二人で話している高遠氏とメロウ氏に目を移す。

 ショートカットとセミロング。それが私の眼に映る。両者共々、似たような格好をしているから髪型くらいしか個々を識別できる要素がない。二人とも比較的ボーイッシュに見えるが、聞こえる声色はどう聞いても女性そのものだった。

 ショートカットの女性は多分高遠氏だろう。先ほど海老天氏から紹介されたときの印象が残っている。彼女の声を聞かなかったら、私は彼女を男と認識していただろう。

 スタイリッシュな若者と大差ないその服装は、シンプルだが、華やかさを持っている。私のカラス服装とは段違いだなと私は誰にも聞こえないように溜息をつく。

 セミロングの女性は、メロウ氏か。漆黒の艶やかな髪を見ているとどうしても触りたくなってくるのは私だけだろう。高遠氏と殆ど相違ないその服装は、両者が双子に見えてしまう。

 私はとりあえず彼らに挨拶をし、テラスを出る。高遠氏とメロウ氏は何を話しているのかとても楽しそうだったので、私がいちいち挨拶のために彼女たちの和みを崩すわけにはいかない。私は踵を返し、二階へと向かう。


 二階ではモララーとモナーが三人の人物たちと談笑していた。頭の中で先程まで会ってきた人物を思い浮かべ、消去法で人物がだれかを割り出す。暫く考えていたが、直ぐに答えは出た。美怜氏、ユー氏、そして、愚者氏だろう。

 私はちょっとした悪戯心に支配され、私に背を向けているモナーを驚かそうと試みる。直ぐに愚者氏と目が合うが、私が何をしようとしているのかすぐに把握したらしく、また微笑みをモナーに向ける。

 ゆっくりと確実にモナーの背後へと近付く。二階の部屋は全部畳で統一されているのは私にとって運が良かっただろう。音を立てずに私はモナーのすぐ後ろまで辿り着く。

「わっ!!」

 私は少し大きな声を出しながらモナーの背中を軽く押す。体中の筋肉が緊張して体がびくっと痙攣するのが私の手を通って伝わってくる。モナーの白い体が多少跳ね上がった。私はこらえきれずに、笑う。

「酷いモナ〜。本当にびっくりしたモナ!」

 モナーが涙目になりながらこちらを見る。私はいまだに笑いが止まらなかった。いや、ここまで驚くとは。

「ごめん、ごめん。もうすぐ解散だから皆に挨拶をしようと思って、二階に上がってきたんですけど、モナーの背中があまりにも無防備だったから」

 私は頭を下げながらモナーに謝る。隣にいたモララーも、三人の作家方も、私と同じように笑っていた。

「一番最初に気づいた私は勝ち組」

 まぁ、その時告げ口されてたら私は負け組になっていたのだが。私は愚者氏とユー氏、そして美怜氏を見、ほほ笑む。

「もうそろそろ、宴もお開きかぁ」

 ユー氏が徐に口を開く。そして、右手に持った飲み物を一度、口に含んだ。

 彼のきっちりと整えてある髪は礼儀正しい雰囲気がある。そして、青いシャツに黒色のズボンというのも、何となくホストのイメージがある。勿論、私はホストなんて見たことはないが。そのようなイメージがあるというだけだ。

「そうですね。長いようで短い一日でした」

 愚者氏ユー氏の言葉に同意する。長いようで短い、か。私にとってはあっという間だったが。

 氏は珍しいファスナー付きの赤いチェック柄が目立つシャツを羽織り、その下に白いTシャツがのぞいている。少し暗めの青いジーンズがいいバランスを取っているのではないだろうか。 

 顔立ちも多少整っており、美青年と言えるのではないだろうか。多少長い髪が目にかかっているため、残念ながら、どの様な目を持っているのかはわからない。

「またこのようなオフ会があればいいですけどね」

 美怜氏が呟く。多少小さな声だったが、聞き取れるほどの大きさだった。

 彼女は、Tシャツとジーンズだけという餅氏並みにシンプルな格好だが、それでも、派手すぎない格好に私は好感を抱く。

 少し長い髪を後ろで一つにまとめている。色白というわけではないが、褐色でもない。彼女の肌はその中間に位置していた。美人というわけではないが、周りを温かくする雰囲気を彼女は持っていた。

「そういえば、私達はこのオフ会で何を感じたか話し合っていたんですけど、氏はどう思いました?」

 美怜氏が突如私に顔を向け、質問した。黒く輝く氏の瞳は、黒曜石のように鮮やかだった。

「私ですか。私はですね――」

「おーい。海老天氏が閉会式を始めるってよ。メインダイニングに集合!」

 突如ギコがあらわれ、私は答えることができなくなってしまった。まぁ、いいだろう。私がこのオフ会で何を感じたか、か。シンプルで難しい質問だな。でも、私なりに答えは出ている。

 皆、閉会式が終われば各々の生活へと帰っていく。それは必然で誰も変えることはできない。でも、この宴でその生活に何かが変わっていくのかもしれない。私はそんなことを思いながら一人残された部屋で立ち尽くす。

 長いようで短いこの宴はもう終わる。数多の作家と出会ったこの一日が、海老天氏の言葉によって。

 私はこれから来る現実というものに恐怖を持つが、それでも、この楽しいひと時は大切にしたい。私は手に持った葡萄ジュースを持ち直す。もう、葡萄ジュースは鉛ではなくなっていた。

「この素晴らしい一日に」

 私はいつの間にか一人で葡萄ジュースを天井に掲げていた。どうしてこのようなことをしているのかはわからない、多分、体が勝手に動いているのかもしれない。

「乾杯!」

 下で、歓声が聞こえたような気がした。



―終―







*Special thanks*お忙しい中、原稿依頼にお応えいただきありがとうございました。
高遠ロキ氏  AAキャラクターイラスト制作
凌兎氏          「抄雪高校文芸部」執筆
皇無氏          「Epilogue」執筆